印鑑を廃止するなんて可能なんですか?
目次
新型コロナと印鑑
新型コロナの感染拡大により、在宅勤務を行う人が増えていますが、ニュースでも話題になるのが
印鑑を押すために出社しないといけない!
というものです
確かに、大切な印鑑を社員の自宅に持って帰ることを会社が認めていない会社も多いと思います。とは言え、ハンコを押すだけのために満員電車に乗って出社しないといけないのは、なんとも理解し難い状況ですね
このニュースからして派生して、
日本はハンコ文化があるから遅れている!
生産性が低いのは印鑑を使っているからだ!
と、新型コロナによって、日本の印鑑がすっかり悪者にされてしまいました
また、日本のIT政策担当大臣が、ハンコ議連会長であったことの衝撃はあまりに大きすぎました
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そういった論調の中で、
欧米には印鑑なんてない!
サインで全部済むなら
印鑑なんて不要だ!
ハンコをなくして、IT化を推進して、日本の仕事の効率化を一気に図ろう!!
果たしてそうなのでしょうか?
認印と実印
印鑑は、日本の伝統工芸でもあるんですよね
出典:ハンコヤドットコムHP
まず、ハンコには大きく2種類があると思います
認印と実印
です
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認印は、言葉の通り、何かを認めったときの意思表示に対して押すハンコです。宅配便の受け取り、回覧の確認と受領など、何かを認めたときに押すハンコです
たまに、認印は法的効力がないと言う人もいますが、認印だからといって何も効力がないというのは間違いです。宅配便の荷物が来ないといって配達業者に文句を言っても、宅配業者があなたの認印が押されてた受領書をもっていれば、あなたが荷物を受け取った証拠として有効になります
ただ、そのハンコが、あなたの使っているものとは全く違う物であると証明できれば、その受領書が偽物であることになるかもしれません
ただし、それは法的に争ってみないとわからない話です。そういった意味において、認印には法的効力がないとは言い切れません
また、だからといって、宅配の受領のために、実印と印鑑証明を使う人もいないでしょう。世間一般的には、宅配の受領が裁判沙汰になるようなことを想定していないので認印で済ましているわけです
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ちなみに、たまにシャチハタ印はお断りということがあります。例えば、銀行印の場合です。シャチハタ印が銀行印に使えないのは、シャチハタ印がゴムでできたスタンプだからです。ゴムは経時的に変形しやすいため、シャチハタ印を銀行印に使うことはできません
要するに、銀行印は、認印と実印の中間の存在で、法的効力というより、銀行の便利のためにあるようなものです
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次に、実印です。実印は、個人や法人と紐付けされ、それを用いて、契約の締結や資産の売買を行うことができます。なぜそのようなことができるかというと、実印は役所に届けられていて、役所が正式な印鑑であることを保証してくれるからです
ただ、世の中に実印を用いなくても、正式な契約書を作成することがでます。必要なのは
公証人
です
出典:松戸公証役場HP
公証人は、国に認定された資格で、公証人立ち会いのもとに作成され、署名された文書をお墨付きの契約書とすることもできます
日本には、約300ヶ所の公証役場に、約500人の公証人がいるようです
ハンコ不要論
新型コロナの感染拡大にともなって拡大している
ハンコ不要論
を聞いていると、どうも認印と実印をごちゃまぜにしているような気がします
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まず、認印は代わりにサインですませれば日常的に何もこまることはないです。むしろ、どこでも売っている三文判より、本人が記入したサインの方が三文判より、よっぽど信頼性が高いです。欧米にはハンコがなく、すべてサインで済ませているのと同じです
でも、宅配便が来たときにシャチハタをポンと押すのは便利ですよね。便利なのに認印をなくす必要もないと思います
おそらく問題なのは、一部の役所において、申請書に手書きで署名しているのに、更に認印を求めている書類です。直筆でサインをしているのになぜ認印を求めるか意味がわかりません。法的根拠がないのに、慣習として残っているだけだと思います
税務署、消防署、水道局などの役所にそれが多い印象です。これに対して、区役所などの役所は意外と脱ハンコが進んでいる気がします。こういった意味のわからない認印の押印は、廃止してほしいです
また、請求書、領収書にハンコがほしい、ハンコを押したいという要望もあるようですが、これも必要ないので廃止してほしいです。しかし、長年の習慣でとか、お客様が必要だからという理由での要望は多いようです。偽物でない証拠としたいという意図もあるようです
これに対しては、どうしてもハンコがほしいなら、パソコンでハンコの画像を貼り付けることをおすすめします。無料のAdobe Acrobatを使えば、自分のハンコの画像を登録しておいて、PDFファイルに簡単にハンコを押すことができます。ただし、あくまで画像なので、誰かがそのハンコを保証してくれるものではないです
結局、認印は宅配の受領など、便利なら使えばいいし、役所の申請書など何のためのハンコかわからないところはどんどん廃止していけばいいと思います
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次は、実印です
たまに、欧米には実印もなく、なんでもサインで済ませているから、日本もそれに習って、実印を廃止してサインにしよう!という意見は、明らかに間違っています
まず、欧米には実印はありませんが、代わりに公証人:Notary(ノータリー)制度を利用することになります。アメリカの例ですが、公証人のライセンスは州が公認するライセンスです。なにか契約書を作る時、郵便局などにいって「公証人サービスを利用したいのですが、公証人はいますか?」と聞くと公証人の資格を持った人が出てきてくれます。そして、自分が契約書にサインすると、その横に公証人がサインをしてスタンプをおしてくれます。これで、この書類は確かに私が参したことの証明になります。お礼は$10ぐらいを払います
欧米は、サインだけで済ませているわけではないのです
公証人を使わなくても、いざとなれば筆跡鑑定をすればいい?なんていうのは、筆跡鑑定のコストを考えれば、あまりにも非現実的な考えです
日本の公証人は、全国に約500人ですが、アメリカには約400万人の公証人がいます。アメリカでは、簡単なセミナーを受ければ、公証人のライセンスがもらえるようです
このため、役割は同じでもだいぶ様相が違います。アメリカの公証人は、事務所も構えていませんし、書類の保管などの業務は全くしません。私も公証人を利用したいときは社内で公証人のライセンスを持っている同僚にサインしてもらっていました
子供の学校に提出する書類などに公証人のサインが必要なケースは多いです
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このように、欧米は印鑑証明がない代わりに、その人がサインしたかを証明するために公証人を利用しているのです。よって
欧米のようにサインだけにして、実印は廃止
とはすぐにはならないのです。欧米のように大量の公証人のライセンスを用意するより、現状の印鑑証明のシステムの方が、日本人には使いやすいと思います
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これに対して、クラウド型の承認システムを用いて、契約書上の実印を廃止しようという動きがありますし、実用化もされているようです。しかし、これらのシステムにはいくつかの課題があると思っています
これらのシステムは、契約する両者がシステム上で契約書の合意の意思表示をします。それをシステムの運用会社が第3者として両者の意思を確認して契約の締結を完了させるものです
要するに、システムが両者の意思を確認したことをシステム的に判断して記録を残すものです。つまり、契約締結についてサーバーにデータで残すものです。ということは、そのデータをどこかに未来永劫保存しておかないといけないわけです
データの漏洩や改ざん、長期間に渡るデータの保管、システムを開発した民間企業にまかせても大丈夫でしょうか?
自分だったら、怖くて不動産の売買契約をクラウド型の承認システムに任せようとは思いません。同じように感じる方を多いと思います。従来型の印鑑証明を用いた契約システムの方がよっぽど安心です
実際、クラウド型の承認システム関連の判例はまだ一つもなく、かといって法律でそのプロセスが100%保証されているわけでもありません
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ただし、マイナンバーカードのようなIDチップの付いたカードが日本で普及すれば、政府お墨付きの認証システムを利用でき、印鑑の廃止も視野に入ってきます
しかし、個人情報の漏洩を非常に怖がる国民性が、マイナンバーカードの普及を阻んでいます。マイナンバーカードの利点を説明しきれていない政府にも責任があると思います
結局、現状、日本で実印を廃止すことは難しいでしょう
まとめ
新型コロナの感染拡大により、
ハンコは不便だから廃止しろ!!
と声をあげたり、ハンコ議連のIT改革大臣をディスる人が多いようですが、あまりに短絡的な意見です
確かに、無駄な認印の押印は廃止した方がいいと思いますが、ハンコはハンコなりの便利さがあります。特に実印+印鑑証明は、欧米のようなサイン+公証人に比べて信頼性も使い勝手も悪くありません
また、クラウド型承認システムも発展途上中で、現状、実印の置き換えにはならないと思います。マイナンバーカードの普及も時間がかかると思います
もちろん、自分としても、日本のIT化が進んで、印鑑が廃止されることは、日本に取っていいことだと思いますし、新型コロナをいいきっかけにしてほしいのですが、この日本でこのことがそんなに簡単に進むとは思えません
結論、
印鑑はまだまだ必要!
です
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サラリーマン大家道、まだまだ続きます
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます