変化できる者だけが生き残れる?
目次
変化できる者だけが生き残れる
人間の祖先は猿であると主張したダーウィンの学説:進化論を知っている人は多いでしょう。その延長で進化論で言っている
変化できる者だけが生き残れる
という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。さらにそこから転じて、
ビジネスで生き残るには
絶えず変化しないといけない
という教訓めいた話を聞いた人も多いと思います
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まず、この話に大きな間違いがあります。進化論に詳しい人ならすぐに気がついたと思います。例を上げて説明しましょう
象の鼻が長い理由
は何でしょう?
「それは、草原に暮らしていた象の祖先は鼻が短かった。それでも地面に生えている草を食べていたから何の問題もなかった。でも、段々、干ばつなどの気候変動で地面に生えている草が少しずつ少なくなり、象の祖先は木に生えた葉っぱや果実も食べなければいけなくなり、少しずつ鼻が伸びてきた。結果的に鼻を伸ばすことが出来た象の種族だけが生き残り、象の鼻が今のように長いものになったからです」
不正解です
ダーウィンの進化論を説明する上で重要な要素は
突然変異
です。
突然変異とは、遺伝子構造が何らかの要因よって変化して、その種の特徴を遺伝子レベルで変化させ、これにより新しい機能を持った個体が生まれることです。そして、突然変異はランダムに起こり、特に方向性はありません
生物が、個体の特徴を大きく変化させることができるのは、受精卵のレベルで起る突然変異しかチャンスはありません。成長してから環境の影響を受けて遺伝子の配列が変化することはないからです
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象の例をとれば、原始の象の時代に突然変異が起こり、たまたま少し鼻の長い象が誕生しました。でもこれは環境に合わせて象の鼻が伸びたわけではないのです。もしかしたら、同時に耳の少し小さい象が生まれたり、足の長い象も生まれたかもしれませんが、その当時、草原には草は豊富にあり、将来的に干ばつが起るなどその当時の象が知るわけはありません
そして、環境の変化は、突然起こります。干ばつで草原の草が消滅しました。草しか食べられなかった鼻の短い象の種族はあっという間に絶滅します。少しずつ鼻を伸ばしている暇はありませんでした。これに対して、たまたま突然変異で鼻が20cm長かったヘンテコな象の種族は、低木の葉っぱに鼻が届き、生き残ることができました。
いわゆる
自然淘汰
です。
象が自分で自分の鼻を変化させて生き残ったわけではありません。逆に、地球環境がずっと安定的で、草原の草が豊富だった場合、鼻の長い象は鼻が邪魔してうまく草が食べられず、絶滅したかもしれません
キリンの首が長いのも同じです。あの長い首で、ライオンから逃げながらサバンナを走るのは非常に辛いものがあると思いますが、結果的には首の短いキリンが絶滅して、首の長いキリンが生き残りました。キリンの首が長い原因は、どこかのタイミングでたまたま遺伝子レベルで突然変異が起こり、たまたま首の長いキリンが誕生し、それがたまたま環境の変化に有利だっただけです
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簡単にまとめれば、進化論の本質は、
変化できた者が生き残った
のではなく
突然変異と環境変化が適合して
たまたま生存できた
ということです
そして、次の変化が来れば、それによって、今の象もキリンも人類も生き残れないのかもしれません。45億年の地球の歴史からみれば、哺乳類の歴史など一瞬に過ぎません
不動産投資進化論
近年、世間を賑わしたニュースの中で、不動産投資の世界における突然変異の例としてあげられるのが
シェアハウス
です。
今で言うシェアハウスというものは、昔で言う寄宿舎で、その発生はおそらく、明治以降に大学に入学する学生が、安く共同生活を始めるために突然変異的に発生したのだと思います
しかし、その後、学生も裕福になり、アパートや賃貸マンションに住むようになると、寄宿舎や学生寮は絶滅の危機を迎えます。突然変異の個体が生き残れるかどうかは、単純にその環境によって決まるだけです
それが、現代の様々な環境の変化によって、シェアハウスビジネスが注目されることになりました
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環境変化の最初は、2013年のアベノミクスで始まったサラリーマン大家ブームです。低金利を背景にサラリーマンが都内の不動産取得に殺到しますが、当然、アパート建築に適当な土地は限られています。仕方なく建築業者は、共同住宅が建たない旗竿地(敷地延長)への長屋の建築を積極的に行うことになります
長屋は、共同住宅ではないため旗竿地(敷地延長)への建築ができる上、東京都が定めた窓先空地の設置の必要がない、消防法の適用も甘いなどのメリットがあります
その代わり、共同住宅ではないので、長屋は1戸1戸が外の避難通路に直接つながる玄関を保つ必要があります。12連棟の長屋であれば、建物に12個の玄関がついています。はじめにこういった建物を見たときはギョッとしましたが、いまではだいぶ見慣れた気がします
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このような、旗竿地(敷地延長)は長屋しかたてられないという中で、既存の住居を改造してシェアハウスを始める人が増えてきました。そこで、2013年国土交通省は、シェアハウスを長屋とは違う「寄宿舎」として取り扱うと通達します
その後、東京都が大きな条例の改正をします
東京都建築安全条例の改正について
(2015年4月1日施行)
興味のある方は検索してみてください。ポイントは
床面積200平米以下
3階建て以下
各階6部屋以内、合計12部屋以内
の寄宿舎=シェアハウスであれば、
旗竿地(敷地延長)に建築可
軒先空地が不要
という、アパートなど共同住宅では考えられない好条件を得ることとなります。そして、もともと寄宿舎(シェアハウス)は、長屋のように各部屋ごとに玄関をつける必要もないのです
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2012年に設立されたスマートデイズは、2014年に「かぼちゃの馬車」事業を開始しましたが、この2015年の東京都の法改正にそってシェアハウス事業を拡大したのは間違いがありません
まさに、明治に突然変異で発生した寄宿舎という突然変異種は、絶滅の危機をなんとか生き延び、平成中期の東京都の条例改正で、サラリーマンの不動産投資環境において、シェアハウスという一時的ではあれ、業界最強の種族となったのです。ただ、残念ながら、現在ではシェアハウス科かぼちゃ属は、絶滅危惧種の1つになってしまいました
長屋規制
そして、今まで無風であった長屋も規制強化の対象になります
この背景には、従来、アパートなどがなかった住宅地の旗竿地へのワンルームタイプの重層長屋の賃貸住宅の進出に対して、従来からそこに住んでいた戸建住宅の住民が反発したことに始まります
都内の各地で長屋建設反対運動が起こり、東京都は2018年10月15日に条例を改正します
ポイントは、
敷地内通路を2mから3mへ
(ただし11戸以上)
窓先空地50cmの設置義務
です。ただでさえ、敷地条件の悪い東京都内の旗竿地において、この改正による建物へのインパクトそれなりにあると思います。たしかに11戸以上という大型の長屋が対象ですが、大きな土地だけれど長屋しか建たない土地もあります。そういう土地の活用の可能性を制限して良いことがあるか疑問です
表向きには災害防止ですが、裏に地元住民の圧力があったのではないかと想像すると気分がいいものではないです
これにより、長屋科都内大型土地属も絶滅危惧種の一つに仲間入りです
リゾートマンションが民泊で復活
不動産投資業界の突然変異の生き残りとして注目している分野が一つあります。最近の健美家のニュースで中川寛子さんがレポートしていた記事です。
リゾートマンションが民泊で復活
というものです。1980年代の末期のバブル経済において、新潟県の湯沢町にたくさんのリゾートマンションが建築されました。私も大学の先輩の別荘に行ったことがありますが、大浴場完備のそれは素晴らしい施設でした
まさに、日本においては突然変異の不動産です
しかし、現在は、安いものは物件価格10万円以下で売りに出されていいるそうですが、管理費が高くで買い手がつかないそうです。築30年超えなので大規模修繕費も気になります。永住組もいるようですが1割以下で、施設は老朽化するばかりです
そんな中、エンゼルリゾート湯沢の管理組合が、民泊容認に動き出し、今では民泊での収益で表面利回り25%を記録し、販売物件も即売状態が続いているそうです
この流れは、日本中に波及しそうな予感がします
区分マンション科リゾート属の突然変異種が再び、繁栄しそうな環境が整ってきたのです
まとめ
不動産投資の経験者であれば、これから始めたい初心者の方から
どんな不動産に投資したらいいのか?
という質問を受けたことがあると思いますが、正直、自分は困ってしまいます
それって、
これから繁栄する生物は何?
って聞かれているのと同じぐらいハイレベルの質問をしているわけで、鼻の長い象が本当に生き残れるのかを予想するのと同じぐらい難しいです
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不動産投資に関して言えば、
何に投資したら儲かるのか
(どの生物が生き残るのか)
という情報ばかりを探したり、コレクションするような受け身な考えは、進化論の視点からみると成功(繁栄)の近道ではない(絶滅の可能性が高い)ことは明らかです
所詮、突然変異は突然変異、一瞬の繁栄があったとしても、「かぼちゃの馬車」のように自然淘汰される可能性も高いわけです
進化と繁栄はゆっくり起きるもので、それに比べて我々人間の一生は非常に短いものです。不動産投資業界では新種の、儲かるかもしれない突然変異種を探しまわる、つまり、流行の不動産投資ばかり追い求めるのは、自然の法則から考えても無理があるのです
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生物と不動産投資
全く違う世界ですが、突然変異が起こったり、生物では大量絶滅、不動産ではバブルの発生などがあったりして、どちらも長い時間をかけて、少しずつ進化しているという共通点があるように思います
そして、地球の生物の長い歴史が教えてくれることは、そこには恐竜が滅びたように、永遠に繁栄する種族は存在せず、将来、人類に代わってどのような生物が地球を支配するかに関しても正解はないと言うことです
もし、生物と不動産投資に共通性があるのであれば、不動産投資にもやはり、正解はないということではないでしょうか?
そして、生物も不動産投資も最も大切なことは
生き残ること
それだけだと思います
あえて言わせてもらえば、
進化論のように
ビジネスで生き残るには
絶えず変化しないといけない
なんて、真実と違うことをいっているコンサルタントさんたちは、自然の摂理に基づく、本当の生存競争の厳しさを知らない甘い人達だと思います
不動産投資は、突然襲ってくる環境の変化、例えばバブルの崩壊やリーマンショック、地震や台風などの自然災害、金利上昇、デフレ・インフレなどに対して、その時、その時になって変化するだけで生き残れるような甘い世界ではないと言うことです
やはり、常日頃から、自分の不動産投資を、様々な面で盤石なものにする努力を怠らないことが、最も大切なことだと思います
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サラリーマン大家道、まだまだ続きます
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました