初心者向け!不動産投資分析入門:利息で考えるとわかりやすい利回りの話
シミュレーション日記
01:回っているってどういうこと?
02:足しの株式、引きの不動産
03:まず初期状態を考えよう
04:所得計算とCF計算
05:初期投資を回収ってどういうこと?
06:テリシム Ver3.0
もよろしくお願いいたします
目次
IRR:想定利回り
「T先輩、不動産投資と株の比較はわかりました。この例に限れば、不動産の方が、レバレッジが効いてROIが高いですね」
注)ROI:Return On Investment 投下資本利益率 投資した金額がいくらの利益で返ってきたかの指標、ここではROI=年間収益÷初期投資という定義で使っています。初期投資ではなく、投資総額を使う場合もあります
「A君、その通り」
「でも、不動産同士をROIで比べるはどうなんでしょうね。頭金が少なければ、少ないほど効率がいいように見えちゃいますよ」
「A君、いいところに気がついたね。我々の会社では、何かに投資して、どれぐらいの利益が上がるかというROIが最も使われる指標だよね。でも、ROIで投資不動産を比較することは少し無理があり、おすすめしないよ
じゃあ、どうすればいいか?3つのステージ:購入・運用・売却を通じた総合的な投資の利回りが求れば、定期預金の利息のように比較がしやすいよね
それが
IRR:想定利回り
だよ
内部収益率、正味現在価値がゼロとなる割引率とも言うけど、あえて、IRR=想定利回りということにしよう。なぜなら、最初にある金額の頭金を使って投資を始める。毎年のCFは年ごとに違うけれど、投資を終えた時に一体どれぐらいの利率で運用できていたか想定される利回りを数学的に逆算して求めることができるんだ。そして、その求めた利率をIRRと言うんだから、IRR=想定利回りと言ってもいいと思うよ
言葉も式もちょっと難しいけど、Excelなら計算は簡単だよ」
新築木造アパートと高配当株のIRR
IRRの計算例として、CCRと同じケースを用いて説明します
■新築木造アパート
・新築木造2階建て、1Kx6戸
・販売価格:6000万円
(土地2500万円、建物3500万円)
・表面利回り:8%
・提携ローン:金利2.8% 22年
・融資額:5400万円(頭金600万円)
・諸経費:400万円
■高配当株
1000万円で買った配当利回り3%の株式を22年後に1000万円で売却
◇
Excelを用いたIRRの計算は、0年目に初期投資、その後は毎年のCF、最後の年にCF+売却額をいれて、IRR関数で範囲を指定すればできます
=IRR(範囲指定)
不動産の場合、範囲指定は、0年から22年の不動産のCFのセルを指定してください。高配当株も同じです
求まったIRR
不動産投資:年率6.6%
株式投資 :年率3.0%
株式は、毎年3%の配当を出しているのでIRR:想定利回りは当然年率3%、それに対して、不動産投資は、毎年のCFが変化しますが、IRR:想定利回りはトータルで年率6.6%になります。要するにこの不動産投資は、全体を通して年率6.6%の利回りで運用できたと言うことになります
そして、IRRの数値を比較して、この2つのケースの場合、投資効率的には
不動産>株式投資
ということが言えます
◇
つまり、IRRは、不動産投資の利息と考えれば、以下の活用ができます
IRR:想定利回りの活用
1.不動産投資と金融商品や他の投資(太陽光発電など)が利率%で比較できる
2.不動産同士が総合的な利回りで比較できる
特に、不動産投資同士の収益性の比較において
・築年数、空室率、家賃の下落を考慮すると、購入時の表面利回りではどちらが収益性が高い物件かわからない
・何年目に売却するのが投資的にいいのかわからない
などの問題について、IRRを用いることにより、答えのヒントを得ることが可能となります
築古物件のIRR
そこで、IRRの理解を深めるために、築古物件の2つのケースについてIRRを計算してみましょう
物件の仕様
・木造アパート築30年(耐用年数4年)
・表面利回り:10%
・提携ローン:金利3.6% 22年
・価格3000万円(建物1200 土地1800)
・頭金+諸経費:500万円
■22年運用して1500万円で売却
最初の4年は、建物減価償却費が年300万円あるため、年間86-91万円のCFを得ることができますが、5年目からは減価償却費がなくなることと、経費としていた返済の利息部分が減少することにより、税金が急激に増え、CFは年々少なくなります
IRR:想定利回り 11.8%
(Excelの計算は下記の表を参照)
世の中の金融商品の利息に比べれば、とても大きな利益率であることがわかります。ただし、これは、22年間、空室率が0、家賃の下落もなく、修繕費も発生しない理想的な初期状態の結果なのでご注意ください
しかし、長期間に渡る空室率や家賃の下落率を正確の予測することも難しいです。まずは、初期状態を確認し、投資の対象となるかを考え、それから家賃や修繕費の変化をシミュレーションしても遅くはありません
■5年運用して2400万円で売却
短期に譲渡することは、築古不動産投資において検討すべき手法です。最初の4年間で得られる減価償却費によるCFを獲得し、譲渡益課税が20%に下がる5年目以降に売却する手法です。ただし、建物の簿価は0なので、売却額によっては、建物の利益にかかる譲渡益課税が高額になる心配はあります
IRR:想定利回り 22.1%
(Excelの計算は下記の表を参照)
◇
この2つのケースにおいて、22年運用して売った場合、1,676万円の利益、5年運用して売った場合、614万円の利益を得ることとなり、22年運用して売ったほうが、より大きな利益を得ることができると言えます。しかし、
IRR
購入・運用・売却の3つのステージ
を通した想定利回り
IRR:想定利回りをみれば、早期に売却するほうが効率的な投資であることがわかりました。つまり、IRRは利息という時間の考え方がはいっているので、短期間、特に投資の初期ににそれなりの利益を上げるほうが利息の%が大きくなるということです
このように、IRR:想定利回りは、新築/築古、早期売却/長期保有などの収益を総合的に見極めるために非常に役に立つ指標なので、ぜひとも使いこなしたいものです。Excelを使えばいとも簡単に計算できるので、下記の表も参考にしてみてください。=IRR(範囲)と入力するだけです
まとめ
不動産投資の評価を行うための指標についてコラムで解説してきました。それぞれの指標の説明を読んでいただければ、何を目的とした指標であるのかは理解していただけると思いますが、再度、重要な指標についてポイントまとめておきたいと思います
1.表面利回り(グロス利回り)
想定満室家賃収入÷物件価格
管理費やローン返済などの経費を一切考慮しない理想状態の利益率
2.実質利回り(ネット利回り)
(実質家賃収入ー経費)÷(物件価格+購入諸経費)
実際に獲得できる家賃、実経費、物件価格から現実的な利益率
3.CCR:自己資本回収率
年間CF÷初期投資額
初期投資の回収スピードを表す(毎年の変化を評価)、つまり、最初に投資した頭金、諸経費をどのぐらい早く回収できるかを評価できる
4.IRR:想定利回り
計算式は複雑なので省略(Excelで簡単に計算できる)
初期投資に対する不動産の利息(物件を売却する年までの総合評価)、つまり、投資と運用の全てに渡る収益性の評価ができるため、物件同士の比較、売却時期の判断に利用できる
◇
「T先輩、4つの指標で投資不動産を評価することはわかりました。でも、投資不動産AのIRRが5%、投資不動産BのIRRが7%、だったらBに投資するべきということですか?」
「A君、不動産投資は、そんなに単純なものじゃないよ。数字で見えることと数字に見えないことのどちらも投資判断には重要だと言うことだよ」
「数字に見えないこととはどういうことですか?」
「物件の立地、つまり、その土地の利便性や将来性、建物の品質、つまり、住居の快適性、間取りの良さ、設備の使いやすさなどだよ」
「うーーん、それって難しいですね。それが必要なことは想像できます。でも、それって、どうやって学べばいいんですか?」
「大切なことは、不動産投資をすると言うことは、自分が大家になることだと理解することだよ。そして、同時に自分が部屋を借りる側になった時のことも考えてほしいんだ。要するに、こんな部屋ならきっと借りる人も喜んでくれるはず、だから、大家としては、こういう部屋を提供すればいいはずという思考を繰り返し、繰り返しすればいいんだよ」
「でも、それって、まだ物件を持っていない僕にはきびしいんじゃないですか?」
「確かにそうかも知れないね。でも、立地や住居の品質は、物件を買ったところでほぼ決まってしまうだろう。買ったあとで、小手先の改造をしようとしても限度があるし、かといって大規模なリフォームをしていては利益がでないよ。だからこそ、不動産投資で物件選びは重要なんだよ」
「数字で見えることと見えないこと、どちらもよくわからないといけないなんて、不動産投資って勉強することが多いんですね・・(ため息)」
◇
以上、不動産投資の収益性について具体的なケースに基づいて、数字を用いて説明してきました。初心者の方は、まずは上記4つの指標の意味を理解するとともに、具体的な物件に当てはめるとどのような数値になるかテリシムなどのシミュレーションツールを用いていろいろと試してみてください
とはいえ、計算された指標の数値が投資として適切かどどうかを判断するのは初心者の方には難しいと思います。しかし、ここからは、俗に言う「投資に正解はない」世界かもしれません。「数字で見えること」と「数字では見えないこと」の両面から自分なりの判断基準を構築することが重要だと思います
くれぐれも「数字でみえること」だけで、物件に飛びついたりしないよう気をつけてください
えっ!、数字もよく考えないで買ってしまった!?オー・マイ・ゴッド!
次回予告
指標の説明から本題の物件評価と取り組み方ついて戻りたいと思います。これまで検討してきたことに加え、テリシムを使って、A君にこれまで検討してきた物件の評価をしてもらいたいと思います
新築木造アパート
・新築木造2階建て、1Kx6戸
・販売価格:6000万円
(土地2500万円、建物3500万円)
・表面利回り:8%
・提携ローン:金利2.8% 22年
・融資額:5400万円(頭金600万円)
・諸経費:400万円
A君(年収550万円)の税金控除後のCF
◇
シミュレーション日記、まだまだ続きます
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました